海外スケッチ旅行のススメ
出会いは楽しい
ケッチブックを持って旅をしてみればわかることだが、とにかくスケッチブックを持たない旅と楽しさが数段違う。
往きの飛行機の中で
いつもスケッチは家を出た時から始まる。空港で時間待ちをしている時も旅行へゆく人達を小型スケッチブックに描く。
イスタンブールに行った時、行きのトルコ航空機の中で機内食をスケッチした後、時間待ちに描いた空港でのスケッチに着色をしていた。するとパーサーがぽんとワインを僕の前に置き写真を見せる。奥さんと並んで撮った写真だ。話を聞くと、どうもワイフを描いてくれといっているようだ。快く葉書サイズの紙に似姿絵を描いて着色して渡す。ニコニコして帰っていった。帰ったとたんに今度は若いシュチュワーデスがかわいい犬の写真を持ってきて描いてくれという。これも描いて渡す。今度は年取ったシュチュワーデスが子供の写真を持ってきて自分の子供を描いてくれという。
下手な絵でも、きっと家に帰ったら話のねたの一つになっただろう。僕の方も、飛行機の中は食事をした後は、旅先のガイドブックを見るくらいで閑である。せいぜい機内食のスケッチと周りの人の生態を観察記録するくらいしかないのでこんな事も楽しい想い出
の一つになる。
乗り換え空港にて
直行便の時は別だが、ヨーロッパに行く時はしばしば乗り換えがある。大きい空港は人類のるつぼ、いろいろの顔つきと衣装に出会う。時間一杯スケッチブックを持ち歩くと民族の多様な顔と衣装が描ける。じっと待っている人が多いので描き易い。時には、寝ている俺の友達を描けと言われたり、後ろからニコニコしながら覗き込まれたりする。外国人の顔を描く練習にもなる。閑も潰せる。外国人を描くトレーニングとしては良い。
到着して食事に
ホテルに到着したら、近所のBALかレストランで食事をするか一杯飲むことになる。ここからが本格的スタートだ。異国料理のスケッチ。食事を描きワインを描く。おやじに料理の名前をたずね書きいれる。おやじの顔も描いてやる。 サインをもらう。これでもう友達だ。二度目に行った時はもう絶対に顔を覚えている。握手で迎えてくれる。サービスも良くなる。時にはデザートをサービスしてくれるし珍しいものを出してくれたりする。マドリッドに到着した時3人でBALに入って、たらふくワインを飲んだ。おまえたちはチャンピオンだといわれた.1週間後にまた行ったら「チャンピオン!」と言って迎えてくれた。とにかくスケッチブックをはなさいこと。

ホテルのプランを描く
一杯飲んで帰ったらホテルの中。明日の準備ができたらホテルの部屋の観察。ぼんやり観ていたら気がつかないことが ホテルの部屋には結構その国の文化がたくさん詰まっているものだ。
  僕の場合はメジャーで寸法を測りプランを描く。プランとは平面図のことで部屋を上から見た図である。河童さんのようにおこし絵を描くのもいいが時間がかかるのでプランと共に気に入ったものや室内風景のスケッチを描いておけば後からすべて思い出す。これには少なくとも30分程度かかるので連泊の場合は次の日でもいい。(過ってはデンスケという計測計で天井の高さを書いたが今はしない。方位も記入しておいた方がいい。)参考になるのは日建設計の浦一也さんの「旅はゲストルーム」という本だ。彼はホテルのプランを全てホテル備え付けのレター用紙に描いておられた。これは、実に良いアイデア。ホテル名、場所、電話番号全てわかる。
そして朝起きた時、窓から見える風景をスケッチする。いい部屋の場合はすばらしい異国の景色が目に入るし、安物の部屋の時は隣の汚い裏化粧が見えたりするがこれも景色。とにかく
描く。

観光よりもスケッチ
  朝食をスケッチ。そこには異国の果物や野菜がある。そしてレストランの雰囲気も描く。
  食べた後、いよいよ観光とスケッチに出かける。一ヶ所に長く滞在する場合、第一日目は観光主体か描きたいところを探すことになるだろうが、それでも今描きたいと思う時があるので大きい画用紙も持ってゆくこと。
ミネラルウオーターを買い、カートに絵の道具一式を積み込みスタートだ。地図と小型スッケチブックを片手にぶらぶらと歩く。路上観察の精神で良く見る。気になるものは描く。面白そうなところがあれば観光もする。気に入ったところがあればイスを取り出し大きい紙を広げてどこでも描く。僕は何度も失敗したことであるが、気に入ったところがあってもまだもっと良いところがあるかと思って描かないで他を探し、結局元の場所に帰って来て描く事になってしまった。最初の直感は結構正しいものだ。
  子供は好奇心旺盛。すぐに寄ってくる。子供の顔を描いてやると喜ぶ。ジーッと描いてるのを見ている。お澄ましの女の子はじ―っと動かない。
大勢に囲まれ大観衆の中で描く事態になったり、次から次と子供の似顔を描かされたり、空が塗ってないから塗れとか、とにかく、色々のことが起る。絵を描くのも面白いがこの出会いが面白い。イスタンブールではひまな男が多いためか髭を生やした大人、数十名に囲まれて描いたこともある。あれ以来、人に見られるのが恥ずかしくなくなった。
セビリアの静かな路地で描いていたら、二階の窓からお母さんが歌う演歌、子供との合唱が聞こえてきた。音楽会で聞くよりも楽しい。その絵を見るたびにその時を思い出す。僕は現地主義。家で描き直すことをあまりしない。現地で描いたものの方が絵に勢いもあるし出会いが残る。
腹がへったらレストランかバルで昼食、喉が渇いたらワインかビールで一休み。できるかぎり屋外のテラスのあるところを探して食べる。料理もワインも記録する。食べている人達を描く。テラスからの風景も描く。テラスで大きい絵を描くこともしばしばある。何時間坐っていても文句は言われない。ベネチアのカフェテラスできれいな女性を描いていたら連れの男がのこのこと寄ってきて覗き込む。ニコニコしてその女性を連れてきて見せている。覗き描きをしていたので謝ったが怒るどころか大喜び。絵を描いている人に悪い人はいないのも万国共通。特に、女房と一緒の時など積極的にテラスに座り女房はお茶、僕はスケッチ、女房に何の遠慮もなく描けてよい。

女房と一緒ということで苦い経験を思い出した。
ドイツ・ローテンブルグでのことである。この街は安全だし、グループの人達に女房を任せ一日中1人でスケッチをしていた。夕方待ち合わせて二人で食事をしたがあまり機嫌がよくない。それでも、もう少し描きたいと思って、食事の後また1人でスケッチをはじめ、女房はホテルに帰った。スケッチを終えてホテルに帰り何度も部屋のドアをノックしたが何の返答もない。鍵がないので、しかたなしにフロントに行き従業員に鍵を開けてもらったら、中にはちゃんと女房がいた。どうも僕が絵ばかり描いていて「はぶてて」のことらしい。その後は少し反省してスケッチを控えた、という経験がある。絵の仲間と旅行をすればこんなことはない。と言って、何時も仲間ばかりでというわけにもゆかない。


ホテルで着色
大きい絵はその場で着色するが小型のスケッチ帳の方は、枚数も多いのでそうもゆかない。そこで、ホテルでその日のうちに小さいスケッチ帳の方に色を付ける。印象のはっきりしている時に色は付ける方がいい。デジカメで撮っておきその画像を見ながら着色するのがよい。(今だったらデジカメ)で撮っておく方法もあるだろう。今日の行動のメモも記入する。そして、明日の準備。後はぐっすりお休み。
帰路
こんなことを毎日続けながら旅は終わりに近づく。一週間もすると絵の腕前もかなり上がる。当初の絵はびくびくしているためか勢いがないが一週間も描き続けているとだんだん調子が出てくる。調子が出てきたところで帰るようになるのは残念だけど、これは仕方ない。
空港で最後の待ち人スケッチをし、飛行機に乗り込む。飛行機の中で最後の色付け、小型ノートは5、6冊になる。レシート、地図、チケット、何でも貼り付けてあるので記録としてはほぼ完成品に近い。あとは余白に帰ってから写真を貼り付ければいいだけ。

帰宅してから
朝から夕方まで描いているので、多分、大きい画用紙の方は一日平均5、6枚は描けてるでしょう。30枚ないし40枚は一週間もいればあるはずだ。着色の足りないものは補足する。但し、現地の雰囲気を消さない程度にすること。また、買ってきたお土産類のスケッチもする。
そして、額に入れる。毎日酒を飲みながら眺める。写真も貼り込む。帰って二日もすれば旅行絵日記ができている。家族にも友人にもこれを見せながら思い出を話す。(今頃は、それらをこのHPで紹介しそれらをもとに冊子を作って製本してまとめている。)
たった一週間のスケッチ旅行で前後最低二ヶ月は楽しめる。一回海外に行けば二、三十万円はかかるが二ヶ月も楽しめば安いものだ。